夜おすすめです、「No man's land」展


庁舎の移転のため、近々取り壊される予定の在日フランス大使館旧庁舎(南麻布)に、過日、「No man's land」展を見に行った。

天気が良くない日だったのでより早く日が落ち、着いたときにはもう真っ暗。けれども、光を使った作品を見るため、この暗さが狙いでもあった。
1957年に建てられた直線的でモダンな建物(ジョゼフ・ベルモン設計)の、各部屋の壁や床、廊下、階段まで自由に彩色されるなどして使われて、約70名のアーティストによる現代美術の作品が展示されている。
雰囲気は、「美大の文化祭に行ったことがない人間(私)が想像する美大の文化祭」という感じ。でも、エールフランスプジョーのブースを見るとフランス関係の展示であることをはっと思い出すのだった。
制作中のものや作家さんがいるものもいくつかあったので、作家と話をしたり、期間中の変化を楽しむことも可能。
また、一緒に行った友人が私が気づかないところにいろいろ気づいてくれたお蔭で、より楽しめた。


玄関でロイ・リキテンスタイン風だが目の辺りがより現代っぽい、伊勢谷友介とリバース・プロジェクトの壁画に迎えられて中へ。


以下、特に心に残ったもの。
・プラプラックス/近森基、久納鏡子、筧康明、小原藍:暗い空間のなか、いずれも白い紙でできた、天井から吊り下がる植物や町の風景が白いスクリーンに映し出され、見る者がボタンに触れることで映像に変化が生じる。友人の影が作品に溶け込んでいた。自分の影をよく見るのを忘れた。

岡田裕子:《愛憎弁当》という言葉とそれにふさわしいレシピが何ともいえない。

・小松宏誠&石渡愛子/『Air Song』(写真)。庭園に設置された、登り棒くらい高さがある透明なチューブの中を、白い羽が上昇し、下降する。写真だと青っぽいが本当はもっと白が際立っていて、羽ごとに動きや速さが微妙に異なる。これを見るため「夜」という時間帯を選んだのだった。
中からも外からも、見ているときはただうっとりしていた。
「消失する運命の場所」といっても、所有権が移転しマンションが建ったら違う意味をもつ場所として同じところで続いて行くのだろうけれど、友人と寒いなか石段を上って雨に濡れながら緑とチューブと建物を目にしていた風景、というのはこのとき限りのもので、確かになくなってしまうのだよな、とあとで思った。

リリアン・ブルジャ:まさか美術展で体育っぽいことができるとは思わなかった! 楽しい! 皆さんもぜひ!

・ジュール・ジョリアン:不気味な融解は形が日本列島みたいでもあり、見ていてみぞおちが苦しくなる。あざのような日本国旗に該当するものは、自分にとっては何だろう。パスポートサイズの日本とフランス国旗と灰色の顔で構成された紙を、展示の前を通過し裏や斜めから見たときに透ける色がやわらかくて美しかった。(国から国へと)行って帰ってきたらこれだと元のままだな、とも思うが。昼の光だと透け方が変わるのだろう。

・鬼頭健吾:みっしりしたものがドーンと真ん中にあるのだけれど、壁を覆う金紙はチョコレートの包装紙のように薄く軽く、壊しやしないかとひやひやして、その向こうにどんなものがあるのか考える暇がなかった。

・松本春祟:大使館宿舎の移動の際に残されたものが、フロッピーディスク、古い電卓、ファイル、電気コード、ポット、スピーカー、ペットボトルなど天井高くまで並べられたり積み重ねられたりしている。横向きの椅子が人間臭い。ひもで縛られたファイルが印象的だった。

・マチュー・メルシェ:直方体の作品は、そばによるまで何か全然わからなかった。

・佐々瞬:熊の視点で民家を覗く感じ。ここでなくても……?、という印象が、かえって(儀典課だったんだよねこの部屋。どんな使われ方をしてたんだろう)ということを考えさせることに。

・アレクサー・ダエール:執務室にある、事務的には「過去のもの」が、銀色に塗られることで「未来っぽいもの」になっていて、しかも実際に事務用品として使われることはなさそうという落ち着かなさがこの場所にとても合っていて、本っぽく見えるものだけがカラフルに塗られているのも、忘れ難い。


旧庁舎別館で開催されていた、東京藝術大学系プロジェクト「MEMENTO VIVRE/MEMENTO PHANTASMA(生きた記憶/幻の記憶)」(12月27日(日)まで)も面白かった。なかでも以下のものが面白かった。

・古川あいか『何を如何に知れるか、とあなたは問う』:ドラム式(?)洗濯機の中の洗濯物の絵が、大小十枚以上にわたり展示されている。展示の仕方(配置)に際立った工夫を感じた唯一の作品で、部屋の角もよく生かされていて、自分まで洗濯機に放り込まれた気分になった。

・松田唯『land wear#2』:建物や等高線を含んだ新宿、高知等の各土地の立体的な図面を、立体的なところごと布に写し取って服を作るというのは新鮮に思えた。服のデザインというか形と土地との関連はあるのだろうか。土地の人の考え方の新しさとか?

・渡邊詩子/金沢寿美『1944年と2007年』:1944年、すなわち戦時中の船での思い出を綴った女性の文章が奥に展示され、2007年にほぼ同じ内容を若い男性が現代の言葉でさほど抑揚もつけず喋っているビデオが手前に展示されている。語り方で印象が変わることが体験できた。どうせならまったくはしょらないで現代語で喋ってみてほしい気もするけれど、言葉を扱っている作品は少なく貴重で、もっとあってもいいと思った。

・坂本千弦『滲んだ帽子』:ボンドで作られた作品が吊るされた糸を天井に取り付けているものも瞬間接着剤であることに、驚いた。

・AKI INOMATA『やどかりに「やど」をわたしてみる』:「No man's land」からタイトルのような発想が出てくるなんて! 土地の所有権があと50年は日本、その後はまたフランスに移るらしいこともこの作品で知った。


「No man's land」展は2010年1月31日(日)まで開催、ただし開館時間に注意です!!
木・日10:00〜18:00 金・土10:00〜22:00(入館は閉館30分前まで)ですが、要確認です。
休館日:月〜水 入場無料
(同時開催の展示は、東京藝術大学系プロジェクト「MEMENTO VIVRE/MEMENTO PHANTASMA(生きた記憶/幻の記憶)」が12月27日(日)まで。→次は団DANSの展示が2010年1月21日(木)〜31日(日)まで)
公式サイト:http://www.ambafrance-jp.org/nomansland
私は、入口で100円のパンフレットを買って良かったと思いました。

一緒に行ってくれた友人のブログ:『沢木まひろ ブログ Burgundy Red』http://b-red.jugem.jp/