マーク・ロスコ展


千葉県佐倉市川村記念美術館に、「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」展を見に行った。
佐倉はこんなに山っぽかったかと思うような所で、美術館に入る前にまず広大な庭園に驚いた。三日月形の白鳥池を葉桜や木々の緑が囲み、コブハクチョウ、フランスガチョウ、シナガチョウが毛づくろいや日光浴をしている。

今回は、1958年から1959年に元々最高級レストラン用に制作されたもののロスコがそのレストランが気に入らず契約を破棄したためイギリス、日本等に散逸していた<シーグラム壁画>30点のうち15点が一堂に会する展覧会だった。

最初に目にした<赤の中の黒>も<シーグラム壁画>も、単独であるいはときに連続的に置かれた絵の具のこびりつきや毛羽立ち、絵の具だけでなくキャンバスや紙の凹凸をも含めた立体感に胸がざわざわするものだった。
矩形はきっちりした直線的なものでなく、執着するように固まったり、歪みや濃淡の浮き沈みを繰り返しながら進んだりし、佐倉の竹林の竹の葉みたいに「ふさふさと」支持体に滲んで消える上に薄絹さながら別の色が重ねられていたりもする。展色剤に卵なども使われていたらしく思いがけない光沢もあった。<シーグラム壁画>の展示室は、酸っぱいような汗っぽいような匂いに満ちていて、壁画は高い所に、並んだ絵と絵の間隔が非常に狭い状態で展示されている。最初は展示はもっと低い方がいい気がしたが、あとで低い所に展示された絵を見たとき絵がこちらに向かって歩いて迫ってくるみたいな感じがしたので、ロスコの指示通りこの位置でいいのかもと思いなおした。光る部分があるので、照明にも気を遣うことだろうとも思った。

人それぞれで感想は違うだろうが、なかの一枚にわけもわからず吸い寄せられて、長いこと見ていた。ほかのも、閉ざされた道、開かれた道、炎の揺らめき、遠くの桜がけぶる感じ、など見ていてさまざまなものが浮かんでくる。海老茶、赤紫がかった褐色、黒っぽい赤紫、朱をずっと見つめていると、少なくともここで何かを食べる気持ちにはなれないと思った。この場所にある色のほとんどが血が流れ乾いてかさぶたになるまでの色ではないか、と感じ、展示室を離れてから、あのなかの絵に本物の血が使われていてもおかしくない、とまで思った。

昨晩テレビで「宇宙戦争」という、侵略してきた宇宙人が操るクラゲ型トライポッドマシーン(大阪ではそれを5台破壊したという設定なので、モデルはタコかも。すみません、「大阪」で「たこ焼き」を連想するステレオタイプな発想です)が触手を使って人を吸収しその血を海藻状にして地面にぶちまける映画を見てしまったせいもあるかもしれないが。

でも、これらの壁画に囲まれて、血を流すものをずうっと食べて自分の血肉にしてきたのだということや、血の色を見て血が騒ぐ感じを絶えず噛みしめながら西洋料理を食べるのも貴重な体験かも、とも思った。そうすると、緑の絵は野菜……? そんなことを考える自分は「肉食系女子」……?

フランク・ステラの立体作品、サム・フランシス<ワン・オーシャン、ワン・カップ>、カジミール・マレーヴィッチ<シュプレマティズム(消失する面)>の烏の濡羽みたいな緑、モーリス・ルイス<ギメル>、パブロ・ピカソ<シルヴェット>、マックス・エルンスト<石化せる森>など常設展示も網羅的で充実。また、併設レストラン化粧室の個室扉が、ちょっとだけロスコの絵を思わせる配色だった。

公式サイト:http://kawamura-museum.dic.co.jp/exhibition/index.html
カタログは、ロスコの絵画に対する考え方も少し知ることができるし、紫外線蛍光写真を用いての塗りの分析が大変興味深い。買って良かった。

MARK ROTHKO

MARK ROTHKO