セザンヌ主義展(明日25日まで)とドックヤードガーデン

セザンヌ主義 父と呼ばれる画家への礼賛 ピカソゴーギャンマティスモディリアーニ」展を横浜美術館に見に行った。セザンヌ(1839-1906年)作品は少ししかないのではと思っていたので、セザンヌの作品が思いのほか多く(全体約140点のうち約40点)見られて良かった。
 展示はおおまかに人物画、風景画、静物画に分かれていて、フォービスム、キュビスム、エコール・ド・パリ等の画家にいかにセザンヌが影響を与えているかがわかるようになっている。けれどもあ、この人はセザンヌの絵から何かをつかんだのだと私にも感じられたのは、日本人の画家では岸田劉生、有馬生馬、佐伯祐三くらいだった。

 そしてセザンヌ作品。まず、人物画では、複数出ていたセザンヌ夫人像の塗り残しの使い方が印象的だった。塗り残す場所はアップした髪だったり、水色のカーディガンの前身ごろだったりするが、漫画家が作業が遅れてやたら白いところが多い絵を雑誌に掲載しているときとは違い、ここ塗れてないよ! という感じがせず、むしろアニメや漫画だと色濃い影をつけて立体感を表すことが多いのにこの絵は塗り残しの白さで立体感を表してる! という感じがした。また、大小さまざまなサイズの複数人物の《水浴》のうち人物の性別があいまいなものと、ヴィーナスとキューピッドの絵も寒くないとき緑の多いところで裸になって寝転がりたくなるくらい良かった。

 風景画では、《葉を落としたジャス・ド・ブーファンの木々》、《曲った木》、《果樹園》、《プロヴァンスの風景》、《ガルダンヌから見たサント=ヴィクトワール山》、《ガルダンヌの村》が良かった。水平方向の筆は本当に平らなところ、水平に近いラインのところに用いられ、木々の葉は細い垂直方向の筆で密に描き込まれ、黒に近い緑や紫紺で影も加えられている。屋根は斜め方向の筆遣いだったり、ぼかされているところに斜め方向の濃い色が走ったり。もののラインの方向に沿って筆遣いの方向が決まっているのだろうか。それを強調するための形の構造化・単純化なのか、それとも逆かしらん、とも思った。
 色は色で、オレンジがかったあるいは薄い肌色と緑のコントラストがあり、緑も明るく濃い緑とくすんだ黄緑の上下層になっていて、山の青も濃い、薄い、超薄い、濃い、と水平・垂直の両方向に変化している。空はクリーム色に緑がかった青や薄い褐色が混じる。筆遣いと色遣い双方から立体攻めという印象だ。なのに水彩画のような軽さ・伸びやかさと彩度は低めだが明度高めが多い色のせいで重くないのだ。消失点がすごく意識されている気もした。

 セザンヌ静物画は、机の左端と右端で視点の場所が違うなど、対象ごとに視点を変えているらしいのに絵全体としてバランスが保たれているのはすごいと思ったが、個人的には岸田劉生のが良かった。

 なお、展示は見ごたえがあったが、絵のそばの解説プレートの文字が小さいのが残念だった。ものすごく混んでいたので遠くからしか見られない絵もあったので、もう少し文字が大きいとさらに良かったと思う。手紙の抜粋などのパネルはとても良かった。公式サイト:http://www.ntv.co.jp/cezanne/ 明日25日まで

 写真は、美術館近くの、イベントスペースに使われているドックヤードガーデン。旧横浜船渠第2号ドックという、現存するものでは最古の商船用石造りドックで1997(平成9)年に国の重要文化財に指定された。かつてはここに水が張られ入った船が修理されていたのかと思うと、感慨深いものがあります。左から、前方、中、後方。