明治村1 帝国ホテル中央玄関 


過日、愛知県犬山市博物館明治村に行ってきた。
ここは明治・大正期等に造られた歴史的建造物を移築・保存している一大テーマパークだ。

歴史的建造物は活用されつつ保存されてこそ本来の意義があると思っているので、行く前は、建設されていた地域から切り離され観光の目的として保存されるのってどうなの?、と感じていた。

けれども、実際に行ってみたらもう感激しっ放しで、(これはこれでいいではないか!!)と思ってしまったのだった。


広い・狭いというのは主観的な表現だけれども、想像していたよりとても広くて、敷地内に山があり、湖のような大きな池がある。行った季節も良かったのだろうけれど緑が豊かでハナミズキなどの花も咲いていて、その中に好きな建物が地域や時代を超えて点在しているのだ。建物を見るばかりでなく森林浴までできてしまう。
こうして思い出すだけで気持ちがしゃきっとし、興奮物質が脳内で湧き出て不必要に目がキラキラしそうだ。


車で行ったので、最初の方に見たのが北門近くの帝国ホテル中央玄関(国登録有形文化財)という、最も見たい建物の一つであったことも幸いだった。
フランク・ロイド・ライト設計、1923(大正12)年建設のこのホテルの玄関は、現在の帝国ホテルと違い黄みを帯びた茶色のスクラッチタイル(引っ掻いたような縦溝が沢山あるタイル。移築前はすだれ煉瓦だったらしい)、テラコッタ幾何学模様の彫刻が施された灰色っぽい大谷石大谷石代わりのプレキャスト・コンクリートから成る低層建築で、左右に長く広がりどっしりとしている。関東大震災でも被害は少なかったそうだ。手前に長く伸びる池があり、背後に緑の山があるのも建物と色彩的に調和している。池に人形みたいなものが建っていることも相俟って、マヤとかインカとかいう言葉が頭をよぎる。
壁も柱も軒蛇腹・胴蛇腹も、幾何学模様の彫刻等の効果もあって、張り出したり引っ込んだりリズムがあって単調さから程遠い。


 
けれども中はもっと複雑で素晴らしかった。
小ぢんまりしているものの、メインロビーは3階までの吹抜けで、四隅にあるスクラッチタイル、テラコッタ大谷石から成る「光の籠柱(かごばしら)」や3階回廊のガラス戸と木製スクリーン、1階窓の市松模様のステンドグラス等を光が透ける様に見とれてしまった。多少薄暗い所があるので、明るい所がいっそう引き立つし、時間によって明るい場所が変わっていく。光の籠柱を通り抜ける光には殊に温かみが感じられる。ステンドグラスなど、移築前に実際に使われていた部材も展示されていた。

 
崩れやすそうな大谷石にこれだけの装飾的な彫刻を施すというのも見たことがなかったし、しかも角が鋭角に直線が直線になりきっていなかったりするのが逆に泥臭くていいなと思った。写真には小さくしか写っていないけれど、椅子等の調度品も魅力的だった。


ここでは『帝国ホテル中央玄関復原記』(博物館明治村建築担当部長 西尾雅敏著 博物館明治村(2010年3月))を買った。
移築と復原の具体的な苦労話も興味深く読んだし、(1)著者がライトの提唱したオーガニック・アーキテクチュアの思想(『全ての部分が全体のためにあり、全体が全ての部分のためにある、そのような生物を有機体と言い、このような動植物に見られる各器官の相互関係がオーガニック・アーキテクチュアの基本である。』(同書154頁))に触れた上で、(2)元々日本建築に見られたオーガニック・アーキテクチュアの良さを内外ともに失わずに地震等を免れる組積造が帝国ホテルに加えられていることをわかりやすく説明し、さらに、(3)平面図から帝国ホテルを五体投地した人に見立てているのが大変面白かった。