《蛇使いの女》オルセー美術館展2

国立新美術館オルセー美術館展2010「ポスト印象派」の続き。
この展覧会にはエドガー・ドガ《階段を上がる踊り子》、水色や緑や白が混じり合ったスカーフや白いドレスに日が当たっているところが美しいクロード・モネ《日傘の女性》など印象派の名作もたくさん来ているが、それらはすべて展示の最初の方に集まっていて、「ポスト印象派」の絵がメインディッシュだということが体でわかるようになっているのも、面白いと思った。


元税官吏であるアンリ・ルソーの絵は、折り重なる戦死者の上を赤い舌を出した馬っぽい獣にまたがった少女が楽しそうに駆けて行く《戦争》も、中央下の目を見開いた遺体と視線が合ってしまい忘れられなくなったけれど、やはりその13年後、1907年に描かれた《蛇使いの女》が印象的だった。

鬱蒼とした密林の中で月をバックに全身黒い女が笛を吹いている。そのそばで数匹の蛇がうねり、鳥が笛の音に耳を傾けるかのようにしている。
この絵は子供の頃に図鑑で見て以来、一度本物を見てみたいと思っていた。

第一印象は、「でかい!」
図鑑の小さな図版では大きさがわからなかったので、実物は169.0×189.5cmもあって圧倒された。
「ケーキはホールが素晴らしい」、「おかずは量が多いのが正義」と言っている夫と変わらないじゃないかと自分突っ込みを入れつつ、このところ続けざまに大きな絵に衝撃を受けている(参照:レンピッカ展:http://d.hatena.ne.jp/rvt-aa/20100505/p1)なあ、と思った。まあ、大きくても全く何も心に響かずスルーした絵もいくつもあったのだが。


次に思ったのは、「黒目に星がある!」
女の体は真っ黒ではなく、ダークブラウンやアイボリーも使ってむっちりと立体的に描かれているのだが、黒目に白い星(光)があるせいで、生き生きとした目がこちらをじっと見据えているように見え、惹き込まれたのだった。これも図鑑ではわからなかった。


ルソーと言えば、切るとアロエヨーグルトのアロエみたいなゼリー質がたらんと出てきそうな、肉厚で艶めいた葉の表現が以前から好きだったけれど、端を薄い色で塗り、そこにも中央の濃い所にも濃淡をつけるという大体の色の塗り方を目でとらえても、何でそう塗るとこう見えるのかはわからない。「法則性」を重視してそっくり真似したら誰でもこんなふうにかっちりとお伽話めいた植物が描けるのだろうか、とも思った。

なお、美術館を出たときにすぐ向いのマンション(?)の植え込みの植物の、葉が白く縁取られたり緑の濃淡が重なったりしているのが通常の三倍の光沢と濃厚さがあるように見えた。影響されやすいな、自分……。


ほかにアンリ・ド・トゥールーズロートレックの、マイケル・ジャクソンに似た《黒いボアの女》、ポール・ゴーギャンの、オレンジ、グリーン、パープルっぽいブラウンのコントラストが印象的な《牛のいる風景》、モーリス・ドニの絵全般のぐにゃんと歪んだ女性の体つき、オディロン・ルドン《目を閉じて》などが印象に残った。

公式サイトの《蛇使いの女》が見られるページはこちら:http://orsay.exhn.jp/work9.html