ボストン美術館展

過日、友人が声をかけてくれたので、六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーに「ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち」を見に行った。

六本木ヒルズに行くの自体が相当に久しぶりで、歩いている人々の服装や年齢層が家の近所と違うのが新鮮だった。
「昔、六本木のこと『ギロッポン』って呼んでた人、周りにいた?」「いない」「わたしも。あれは、どういう人たちが使ってたのかねー」などと言いながら森タワーの52階へ。

16世紀から20世紀までの巨匠47人の作品を一堂に見ることができ、会場内は「多彩なる肖像画」、「描かれた日常生活」、「モネの冒険」、「印象派の風景画」など内容ごとに展示コーナーが分かれている。


今回まず印象的だったのは、「『踊り子』じゃないドガの絵」、「コローの(『風景画』でない)人物画」、「モネの(『風景画』でない)人物画」、「ルノワールの(『人物画』でない)風景画」というように、画家の名前を聞いてまず自分が思い浮かべる絵の種類とは異なる種類の絵がかなり見られたことだ。

エドガー・ドガの《田舎の競馬場にて》は、一見、画面手前の馬車で来て子供をあやす家族連れ+犬が草原でくつろいでいるようにしか見えない。よくよく見てみると、画面の上下及び空と緑の大地を分割するほぼ中央のラインの少し下に、騎手らしき人物を乗せた馬たちがものすごく小さく描かれている。でも、広々した風通しの良さと休日のくつろぎ感が出ていて、家の壁に掛けてあったら、眺める家族も和めそうだと思った。

ジャン=パティスト=カミーユ・コロー(長いな)の《鎌を持つ草刈り人》は、色や形のタッチがはっきりしており、仲間由紀絵草刈民代を足して二で割ったような娘さん(でも三日月型の刃の鎌を持つ)の屈託のない表情も生き生きしていて、あー、この後に画風が変遷したんだなあ、と思った。


あとは、「モネの冒険」というコーナーの、一連のクロード・モネの風景画がとても良かった。
全作品の中で一番気に入った《ヴァランジュヴィルの崖の漁師小屋》(参照:http://www.asahi.com/boston/intro/6.html)は、画面左斜め上、けっこう高い崖の茂みの奥に建つオレンジ色の漁師小屋と、その向こうに屋根の高さぎりぎりくらいまで広がる海のエメラルドグリーンのコントラストがいい。「橙は海の青の補色」といった説明もあったけれど、コバルトブルーより分量的にもエメラルドグリーンが強い印象を喚起した。
同じエメラルドグリーンでも、小屋の左側のは凝縮されたような濃さで分量が少なく、小屋の右側のはそんなに濃くなくて手前の方に藤色がかったグレーが交じったりしているのが面白かった。白いヨットの描き方ももこもことデザインっぽくて忘れられない感じ。ヨットも小屋の右側の方が数が多く、大きいものが見られた。この絵は複製画も、予約の赤丸がたくさんついていた。

モネの積み藁の絵は、いくつ見てもよく魅力がわからないし、後年の《ルーアン大聖堂の正面とアルバーヌ塔(夜明け)》に至っては、刻一刻と光の当たり方や壁面の輝きが変化する様子を捉えているのはすごいと思うけれど、形が歪んでいるのが森の老木のようで怖かった。

ボストン美術館は、市民の寄付、寄贈、入場料収入などによって成り立っているそうで、今回のモネの風景画11点のうち10点が寄贈作品だというのに、ちょっと驚いた。
6月20日まで(その後本年7月6日〜8月29日まで、京都市美術館を巡回)
公式サイト:http://www.asahi.com/boston/

この日は、「酒を飲みながら上から傘の花を見る」機会にも恵まれた。駅前でゆるゆる動いているうすいピンク、水色、紫、白などの色が美しく、桜の花びらが、濠の端の方にかたまって流れていくところを思い出した。