トンボ・ツバメ・スズメなど   ルネ・ラリック展  

過日、友人と「生誕150年 ルネ・ラリック 華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ」展を国立新美術館に見に行った。

予想通り観客の女性比率がものすごく高く、また、特にアール・ヌーヴォーのジュエリー作品の展示は観客がケースの前にへばりついてなかなか列が動かないありさまだった。けれども、小さくて精緻な作品をじっくり見てしまう気持ちはよくわかる。

ルネ・ラリック(1860-1945年)の作品は目にしたことがあっても彼がどんな人物だったかのかは考えたこともなく、不倫の熱愛を実らせて再婚したことやその相手のアリスが創作のミューズであったこと、古今東西の美術史料を彼に見せたコレクター&友人であるカルースト・グルベンキアンの存在、作品デザインは家族や他のデザイナーも行っていたが彼ら彼女らの名は表に出ることはなかったことなど、今回初めて知ったことがいくつもあった。

ロダンと、その弟子で彼の愛情を得ながらも結婚はできずまた、彫刻家としてはロダンの名の陰に隠れた不遇な人生を送り精神を病んだカミーユ・クローデルとを描いたTV番組を見たばかりだったので、ラリックのもとにもカミーユ・クローデルみたいな人がいたかもしれない、と思った。
そういう例はないにしても、名前が出てこない多くの工房社員や関係者の尽力もあって出来上がった作品なのだと思うとまた見方が変わってくる気がした。


それにしても、知識のない私にすらラリックが本当にいろいろなものにインスパイアされて作品を創ったことが垣間見えた。
・自然(特に昆虫・鳥)
琳派(ラリック家に文箱や櫛などありそうな感じ)
・アフリカやエジプトのアート
ギュスターヴ・モロー(デザイン画)
・観音像(友人の指摘で初めて気づいた。ガラスの女神像)

作品では何と言ってもペンダント《二匹のトンボ》が印象的だった。なぜ、絵葉書を売っていないのだろう。向かい合う二匹のトンボ。金色の翅脈のなか、本物のトンボの翅の膜に当たるところに南の海のような緑やラピスラズリのような濃い青が輝いている。
子供のころ、オオシオカラトンボの雄の後翅にある茶色い紋様が、胸や腹の水色を透かしまた太陽の光を反射してもいたのか虹色に光っているのを見るのが大好きだったことを思い出した。翅のはかない薄さや半透明な感じまで表れていて、薬液で金属の素地を溶かしてエナメルだけ残すという省胎七宝の技法ってすごい、エナメルってすごいと思った。

近い色調のネックレス《羽のある虫の女》は、上半身が金色の女性の、うねりながら放射状に広がる髪の毛が印象的。昔『銀河鉄道999』の漫画においてメーテルが仰向けで砂漠に墜落したとき、髪の毛がこんなふうに広がっていた気がする。作者松本零士には『インセクト』という作品もあった。

ハットピン《ケシ》はかなり大きい。圧巻だ。色合いが涼しげで夏向き。

コマ撮りのような動きの捉え方の《六羽のツバメの飛翔》、愛らしい動きが一匹ごとに微妙に異なるネックレス《猫》、神話を知っていればと思ったペンダント《デイアネイラの略奪》、悲しそうなヘアピン《天使》、メダル型や合成樹脂の展覧会招待状も良かった。

アール・デコのガラス製品では乳白色のオパール光沢が美しい花瓶《バッカスの巫女》と三足鉢《シレーヌ》、スズメのふっくら感が不思議と出ているネックレス《頭を上げた雀》、テーブルセット《ロータス》、装飾パネル《人物とブドウ》及び《クロウタドリとブドウ》、カーマスコット《勝利の女神》と《雄羊の頭》、淡い緑が優しい感じのグラス《パクレット》が印象的。

疑問点も。アネモネがモチーフの作品が皆、「しおれている」のはなぜ? グラス・セット《トウキョウ》には窓を濡らす雨粒もしくは電球型イルミネーションみたいな球形模様がついているが、名前の由来は何か? 時代が変わったとき、ラリックはアール・デコのジュエリーを創る気にはならなかったのか?

公式サイト:http://www.tokyo-np.co.jp/event/lalique/
9月7日(月)まで。

この本↓は会場でも売られていて、折りたたまれている大きな作品写真の図を開いてみる楽しみがあり、面白かった。

ルネ・ラリック:モダン・ジュエリーの創始者 (「知の再発見」双書・ヴィジュアルプラス)

ルネ・ラリック:モダン・ジュエリーの創始者 (「知の再発見」双書・ヴィジュアルプラス)