ルーヴル美術館展(国立西洋美術館)

もう先月になってしまったが、「ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画」を、上野の国立西洋美術館に見に行った。
「黄金の世紀とその陰」、「大航海と科学革命の世紀」、「聖人の世紀における古代文明の遺産」といったキーワードで大きく展示を分けているのは面白いと思った。

・目玉の一つはヨハネス・フェルメールの《レースを編む女》だったけれど、個人的には前の「フェルメール展」で見た作品のいくつかの方が好き。この女性の顔が、納豆のパッケージなどで時々みかけるおたふくに似ているせいもあるかもしれない。
解説:http://www.ntv.co.jp/louvre/description/pict5.html
けれども、手前の、赤白の糸が垂直方向に垂れているのに対して、その上にある針箱のふたの、まるで紺のセーラー服の襟の白線みたいな三本の白い線がほんの少し湾曲しつつ水平方向に走っているのが、すごく印象的だった。
狙った構図だろう、と勝手に決めつける。


・ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの《大工ヨセフ》は、幼子イエスが蝋燭の炎にかざした手の、明かりのため血管が透けている写実的な皮膚感をその辺にいた人々がみな褒めたたえていた。
解説:http://www.ntv.co.jp/louvre/description/pict12.html
誰も、「蝋燭の炎がここまで長い」ことや「イエスが幼女に見える」ことは突っ込んでいなかった。
もちろん、手の質感は素晴らしかったのだが、それよりも老人ヨセフの額に刻まれた皺の精緻さに見惚れてしまった。
単なる皺ではない。アニメ「風の谷のナウシカ」の王蟲や、丸まりかけたダンゴムシのような、硬い甲殻的艶と繊細な規則性をもった皺なのだ。常設展の他作品でも丹精込めた皺が見受けられた。本物に近づいて見ないとわからないものの一つだろうと思った。


・ヨアヒム・ウテワールの《アンドロメダを救うペルセウス》は、一番心に残った作品。神話は知っていたものの、当時のオランダの状況は知らなかった(世界史で習っても覚えていなかった)ので、
(……にしても、救われるほぼ全裸のアンドロメダの表情がやけに恍惚として見えたり、救う男の顔が微妙に見えないようになっていたり、何だかエロゲみたい……)と思っていたのだが、解説を見て自分の汚れた心を反省しました。
解説:http://www.ntv.co.jp/louvre/description/pict10.html
当時オランダはスペインとの独立戦争中で、オランダの立場はとらわれの身であり救世主を希求するアンドロメダになぞらえ得る、というのだ。なるほど、救世主を希求するから、アンドロメダの表情はちょっと明るいのか……、と思ったものの、完全にすっきりしたわけではない。裸である必要、全然ないしね。大変美しいけれど。あと、怪物がかわいらしすぎる。まるで小型犬だ。

ただ、何にせよ、「筋のとおった説明ができるようにしておく」というのは大事なんだなあ、と思った。


ほかに良かったのは、フランス・ハルス《リュートを持つ道化師》、バルトロメ・エステバン・ムリーリョ《6人の人物の前に現れる無原罪の聖母》、ピエール・ミニャール《ド・ブロワ嬢と推定される少女の肖像》、フランス・フランケン(子)《花輪に囲まれた聖家族》、カルロ・ドルチ《受胎告知 天使》、アドリアーン・コールテ《5つの貝殻》。

常設展ではクロード・モネ《黄色いアイリス》と、フィンセント・ファン・ゴッホ《ばら》が心に残った。
また、これはまったく展示に関係ないが、解説している学芸員さんに「幸福輝」さんというお名前の方がおられる。お名前にプレッシャーは感じないのだろうか、それとも、逆にいつも希望を胸に抱けるのかな、と余計なことを思った。

公式サイト:http://www.ntv.co.jp/louvre/#/top
6月14日まで。