加山又造展

過日、「加山又造展」を国立新美術館に見に行った。数年前にも一度回顧展を見ていたので、実はいまいち気乗りしなかったのだが、行って良かった。
初期のルソー、ピカソらの影響が色濃い動物の絵、琳派を自分のうちに取り込んで自在に発展させている屏風絵、裸婦の絵、猫の絵、水墨画、山鉾の見送り綴織・着物・器・アクセサリー等の工芸品、フォトショップを用いての試作CGなど、バラエティに富んだ作品を堪能した。

特に銀箔や銀箔を多用した屏風絵では、箔切り技法という技法により流麗にうねる銀の波濤から、飛沫を表すのか、釘でガギガギ引っ掻いたような非常に細い銀の線群がノイズのように立ち上がっているのが印象的だった。野毛という技法で、細く切った箔を貼っているのだと知ってびっくりした。
《春秋波濤》よりは、個人的には緑、群青、金、銀、桜色、白でまとめられた《雪月花》が好きだ。特に緑の活かし方が、濃いの淡いの、蛍光っぽく明るいのと葉のかたちまで細かく変えて絶妙だと思った。絵葉書では色が再現され切れず残念。

俵屋宗達がかつて描いた鶴の群れが、大群となり青金と赤金(ってなんて素敵な色名!)に塗り分けられるかたちでバージョンアップし、落っこちているような巨大太陽(左)と巨大月(右)の周りを飛びめぐるように見える《千羽鶴》も圧巻だ。

あとは何といっても《夜桜》(1982年)。並んでいる《夜桜》(1998年)も捨て難いけれど、今はこっち、という感じ。左に桜、右に人魂のようでも般若の面のようでもある篝火が描かれ、篝火の炎は画面右上の端までいって途切れ左端にループしてたなびいている。
花の重みに耐えかねて身ならぬ枝を捩っているような幹の割れたところに、青みがかった灰色と黄色っぽい象牙色が並んでいるのにまず目を奪われた。桜の下や篝火の下の地面がぼうっと明るいことや、花のピンク色に不規則な濃淡があり桜の花一輪のなかにも灰っぽいピンクと白い粒が見られることにも惹かれ、電灯に吸い寄せられる蛾のように、何度も絵の前で立ち止まってしまった。今回一点だけ挙げるならこれだ。不気味な感じもするのに官能にも大変に訴えてくるので困った。

《月光波濤》の右中辺りの白いうにょうにょした波飛沫、目の色が微妙に違う親子猫が驚いているさまがほのぼのとした《音》、喉から赤いフラミンゴミルクが出るのも納得なレントゲン写真っぽい《紅鶴》、走査線にヒントを得たらしい《黒い鳥》、《熱帯魚》・《翡翠1990》等のメゾチント、《錦紗豊後紅梅染千羽鶴文色留袖》(染色:志村ふくみ!)、《祇園祭山鉾南観音山見送り「龍王渡海」》の目が加山又造のアイディアで、キラーンと光る人工ルビーになったこと、等も印象的だった。

なお、作家のサインが、「又造」の略字アレンジなのだろうけれど、右部分がスマイルマークみたいでかわいかった。公式サイトはこちら→http://www.kayamaten.jp/