蜷川実花展

蜷川実花展―地上の花、天上の色―を、東京オペラシティアートギャラリーに見に行った。花、金魚、旅、人などテーマごとに部屋が仕切られた状態で、独特のカラフルな色遣いの写真が展示されていた。
「B 花」では、大きく引き伸ばされて粒子がざらついている写真に接近して見ると人の指が集まっているようだったり多方向にパンチを繰り出しているボクシングのグローブのようだったりするものが、ちょっと離れると雄蕊になり、もっと離れると花になるのが面白かった。白い椿に入っている紅い筋は血みたいで、花びらに溜まったいくつもの露は透明なゼリーか蛙の卵みたい。花にとまるクワガタの虹色光沢も印象的だった。
「C 初期1995〜2002年」では、競馬場だかプールだかわからないが、画面の大方がシアンをちょっと濃くしたような空で、右端の方を斜めに切る形で銀色の手摺とその向こうで両手を上げる観客―裸の男もいる―という構図の写真が心に残った。空には、明るいことは明るいが、明るいと言い切るのが憚られるような、吸い込まれそうな怖さ・暗さとしんとした感じがある。ポートレートの右端も白黒の光と陰影のバランスが良かった。
「E 旅」では、ブルーの地面にばらばらと存在する人々を上から撮影した写真に写っている黒いシルエットの「人々」が、「染色体」に見えてぎょっとした。場所は空港かな、と思ったが、人々の体の曲げ具合や向き合い具合からするとスケートリンクかも、と思い直した。染色体の写真も、私が見たことがあるものは、思いきり大きく引き伸ばしているせいか粒子がざらついていた。1番から22番まで、そして性染色体、と順にきちんと並んでいるものしか見たことがないけれど、実際はこんなふうに、といっても対毎だろうが、ばらばら存在しているのだろうかと思った。
今回一番インパクトがあったのは、「G 造花」かもしれない。墓標に供えられた造花が写されているのだが、布の編み目や花びらを切り取ったほつれが見えなければ、生の花と区別がつかないと思った。虫も造花にとまる。色合いが生の花の写真と変わらない(と私には見えた)し、時間の変化を追わず一瞬を切り取っているせいもあるのだろうが、命があるということはどういうことなんだろう、と思った。生と死が断絶なくすうっとつながっているようにも感じられた。
このほか「D 金魚」の、香港かどこかの逆写しの映像と泳ぐ巨大な金魚たちがオーバーラップした映像や、「F 人」の(これがあの人!!)という数々の写真も楽しめた。
「H 新作2007〜2008年」の「闇」が、カタログでは感じられたけれど実際の展示ではあまり感じられなかったのがショック。黒い色を感じ取る私の能力が弱いのだろうか。これまでの写真とどんな違うことをやろうとしているのかがよくわからなかった。というかどんなに明るい色調でも、初期から「闇」は感じられていた気もする。魚の群れた写真二つと、花びらが腐りかけたアネモネの写真が印象的だった。
公式サイト:http://www.operacity.jp/ag/exh99/
写真はオペラシティの階段。ほかに立派なクリスマスツリーもあったが、ついたり消えたりする階段の三色のライトがやけに目に焼きついた。