フェルメール展1 フェルメール

先日、上野の東京都美術館に「フェルメール展 光の天才画家とデルフトの巨匠たち」を見に行った。ヨハネス・フェルメール(1632-1675)作品は7点、ほかに17世紀オランダはデルフトのカレル・ファブリティウス、ピーテル・デ・ホーホらの作品が展示されていた。フェルメールの印象的な作品は以下のとおり。

・「リュート調弦する女」:画面の手前側が暗い(カーテンと同じ濃紺の布が載った黒っぽい椅子の背面がふさがる)ので、窓から入ってくる光とそれに照らされる女の額や黄色い上着の白い毛皮襟の明るさが際立っている。リベット好きなので、画面右の空いている椅子の鋲がシャープに光っているのも見逃せない。
 ジョディ・フォスター似の女は説明によれば夫が長期出張中らしき人妻で、窓の外を好奇心に満ちた目で見つめ、リュート調弦している。壁にかかった大きな地図の下部の装飾も女の視線と同じ向きに尖っていて、視線を強調するだけでなく、キューピッドの愛の矢にも見える。地図には「EUROPA」の文字も見られ、この女は神話のエウロパエウロペみたいに牡牛に化けたゼウスにたぶらかされクレタ島みたいなところに連れ去られてしまうのだろうか、ともあとで思った。何度も見るうちに「壁のシミが人の顔に見える」レベルであんなものがこんなものに見えたりして、そうなると女の手もものすごくエロティックに見え、あとで夫に「そんなふうに見るのはあなただけ」と叱られた。
・「ワイングラスを持つ娘」:性格悪そうなオッサンに言い寄られて困ったわ、でもちょっとはまあ、みたいな顔をしている若い娘の朱に近いオレンジ色のドレスが光沢やシャリ感まで再現されているのに驚いた。光っているところもピンクだったり、黄みを帯びていたりと本当に微妙に違っている。
 奥でメランコリックな男が座っているテーブルの濃い青のクロスは、ドレスの色とのコントラストがくっきりしている。その上の水差しが載った白い布がずり落ちそうなのが動きがあって面白いし、娘の貞操の危機を表しているようにも見えた。対角線上にフランス国旗のようなトリコロールがあることに今、気づいた。床の市松模様が黒白でなく黒黄のせいもあり暖かい感じ。ステンドグラスの手綱をもつ女神の絵は節制の象徴だそうだが、一番後ろの壁にかかっている絵にはどういう意味があるのか、気になる。
・「手紙を書く婦人と召使い」:婦人の真珠のイヤリングがキラーンと光って、彼女の心の表れのようだと思った。召使いの飽きてる感がリアル。
・「マルタとマリアの家のキリスト」:彼女らは姉妹で、マルタが食事の支度を手伝わないでキリストの話を聞いているマリアのことを愚痴ったところ、

キリストは「マリアは良いほうを選んだのだ。彼女からそれを取り上げてはいけない」と諭す。

(展覧会図録『フェルメール展 光の天才画家とデルフトの巨匠たち』(ランダムハウス講談社・財団ハタステフティング編集、ピーター・C・サットンテキスト執筆、TBS・朝日新聞社発行)166ページより引用)のだそうだが、

マリアの頬に手を当てるポーズは図像学的には「メランコリー」を意味し、マリアが裸足であるのはキリストへの謙譲を意味する。

(* 「フェルメールの作品」(2008年10月11日 (日) 13:22の版)中の「マルタとマリアの家のキリスト」解説文からの引用。『ウィキペディア日本語版』。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AE%E4%BD%9C%E5%93%81)だとしても、しゃがんで頬杖ついてるマリアみたいな格好をして人の話を聞いている人は渋谷センター街くらいでしか見たことがない私の濁った目には、マリア自体も(早く話、終わんねーかなー。だりー)と思っているようにも見えなくもないのだった。そうするとキリストがだるそうな嫁を姑からかばう夫のようにも! マリア:宮崎あおい、マルタ:高畑淳子、キリスト:堺雅人で絵を再現してほしい。
・「ディアナとニンフたち」:ディアナとその右のニンフは、衣服の色的にも顔的にも「マルタとマリアの家のキリスト」のマルタとマリアのように思えた。どう見てもディアナの向かって右のニンフの方が美人で、足をつかむことの象徴的意味を知らなかったため、彼女がうつむいてディアナの小言を聞き流しつつ「やってらんねえ」と土踏まずのツボを揉んでいるようにしか見えなかった。けっして、私の心内語ではありません。後ろを向いているニンフの衣のオレンジが、とてもきれい。
初めて間近で見たフェルメール作品は、(1)色・光と影・構図・雰囲気自体でまず楽しめる上、(2)聖と俗、画中画の解釈など、さまざまな方向に想像できるものが盛り沢山でなんとなれば負の感情のガス抜きにも使いうる、ということで、思っていたよりずっと良かった。「小路」は思ったより心が騒がなかったけれど、時を置いて見ればまた違うかも知れない。
TBS公式サイトの中の「出展作品紹介」は充実していると思った。
http://www.tbs.co.jp/vermeer/jpn/index-j.html