朗読と声質
NHK教育の「佐野元春のザ・ソングライターズ」という番組を見た。当該番組のサイト(http://www.nhk.or.jp/songs/song-w/)によれば内容は
「ザ・ソングライターズ」は、シンガーソングライターの佐野元春さんがホスト役を務め、
日本のソングライターたちをゲストに招いて、「歌詞」すなわち音楽における言葉をテーマに探求してゆく番組です。
とのことで、本日のゲストはさだまさしだった。
さだまさしの一つの言葉でどんな情景を伝えようとしているかの話や、「馬酔木」を「あしび」でなく「まよいぎ」と読ませることで聴き手への訴えかけを変える(まよい――馬酔い――迷い――といった意味が出得ることもかけているのだろうか?)ことの話も興味深かったが、何と言ってもインパクトが強かったのは、佐野元春による、さだまさし「檸檬」の歌詞朗読だった。
十代の頃にはこの歌の歌詞は全部覚えていたこともあり目をつぶって聴いていたのだが、さだまさしの歌を聴いているときとは全然違う風景が浮かんで驚いた。
佐野元春の朗読だと、まず、場所の空気が乾いていている(否定的な意味ではない)。陽が当たっているところはとても暑くても、湿度が低いからちょっと日陰に入れば格段に涼しいという感じなのだ。
かつ、歌に出てくる聖橋が、つるつるはしていないのだが白くきらめきながら強い陽射しを反射しているように思える。決して、さだの歌とシンクロする実際の光景のように、グレーの橋のアーチ開口部内側が湿って黒く黴びたり、橋が架かっている神田川の水が明るい緑に濁ったり潮くさい匂いを発したりはしない印象。橋を行き交う人々が歩く速さも、さだの歌に比べて速め。川の水の色は黒みを帯びた青で、神田川のように時おり魚が見えたりするかはわからないといったところ。
檸檬を橋から放る場面も、何かをあきらめたり断ち切ったりするというよりは、ピッチャーがキャッチャーに、力いっぱいでありつつも冷静に球を投げるのに近い気がした。
「朗読(佐野)」と「歌(さだ)」だから本来的には比べてはいけないのかもしれないけれど、乾いた質感のバリトンっぽい佐野の声とビブラートに湿り気のあるテナーっぽいさだの声では、同じ言葉を発してもこれだけ印象が違うのかということがおもしろく、かなり興奮してしまった。
番組は「土曜の夜11時25分〜11時54分 NHK教育」放送だが、本日分は、
「7月25日(土) 朝 5時00分〜5時29分 BS2」と「7月25日(土) 昼 0時00分〜0時29分 NHK教育」で再放送があるそうだ。
なお、まったくどうでもいいですが聖橋について以前書いたものはこちらです(http://d.hatena.ne.jp/rvt-aa/20080611)。