洞口依子 「のら猫集会」

女優・文筆家である洞口依子さんの「のら猫集会」というイベントに行ってきた(16日)。会場は、西新宿の芸能花伝舎。旧淀橋第三小学校を、教室の机や椅子はそのままに、芸能文化の育成や交流の場として使っている。

参加者には、洞口さん手作りのパウンドケーキや、餡入りのお団子、琉球紅茶(チャイ又はハイビスカスティー)が配られた。洞口さんの旦那さん(用務員、と洞口さんに呼ばれていらした)がこれらのおいしいお茶を淹れてくださった。
今日の洞口さんは、白いシャツに黒いジャケット、淡い茶系のパンツ姿で出席簿を小脇に抱えられ颯爽とした女教師風。
日直(司会)の放送作家兼ヨガインストラクター米澤伸子さんの号令により「起立、礼」で集会が始まり、出席もとられた。1-2教室の黒板には、色とりどりのチョークで大きな「のら猫集会」の文字や、猫のイラストなどが描かれている。

1限はギタリストのファルコンさんとの共演による洞口さんの著書『子宮会議』(参照:http://d.hatena.ne.jp/rvt-aa/20090409/p1)リーディングセッション。退院後のところで、夜の場面や一人で思い悩むシーンも多かったので、洞口さんがあらかじめ教室の電気を消されたのが良かったと思う。ファルコンさんの伴奏も、静かに染み入る感じで、ときに呼吸のよう。
洞口さんは本当に先生のように生徒の間を歩きながら本を読まれる。近くにいらっしゃるとすごくいい匂いがして、頭のかたちもきれい(『銀河鉄道999』のメーテルのように後頭部がなだらかに上がっている)なのがよくわかった。
また、ティファールでお湯が沸く音が、朗読にも出てくる沖縄の海の波の音みたいに聞こえた。

休み時間になり、洞口さん自らが作ってくださったパウンドケーキをいただく。茶色っぽくてココナッツがまぶしてあり、口に入れるときび砂糖の甘さ、パイナップルの爽やかな酸っぱさが広がる。洞口さんはご自身のブログで心配そうにしていらしたが、とてもおいしい。力強さ、意志の強さも感じて、驚いた。共感覚(刺激が、音に対して色、など本来の感覚以外の感覚を生ぜしめること)か!?
 

食べ進めると黄色い(ドライ?)マンゴーも発見した。生より穏やかな味わい。もしかして材料の大部分は沖縄産のものなのかな、と思った。食べながら、日を浴びている気分になる。
あんまり書くと変態チックになるけれど、ものを食べるだけで目頭が熱くなるなんてことは、私は初めてだった。

2限は、洞口さんと東京大学講師・内科医の高橋郁先生、参加者による「お話し会」。癌になって、周囲にこういうふうなことをされるのが嫌だった(手術してから時間が経過した後に安易にもう大丈夫だろう、と言う、全く癌の話に触れない、興味本位で訊く、親しいのに妊娠を隠すなど)、良かった(体調が良くないとき自然に手で介助してくれた)、といったことを初めとするさまざまな話や参加者の方々の発言に胸を衝かれたり、目が潤んだり、そういうことってある、と頷いたりした。

高橋先生の、てきぱきとアドバイスをされながらときにお茶目に場を明るく盛り上げられるパワーや、洞口さんが良くない選択の方に行きそうになって踏みとどまったときの話など沢山の体験談を交えて参加者に真摯に向き合われ、質問に答えられる姿、米澤さんのヨガ(やってみると気持ち良かった)や体を動かす重要性のお話も心に残った。

毎日を過ごすだけでも結構なエネルギーを使うときに自分を奮い立たせるというのは本当に大変なことだと感じたし、体がエネルギーを温存しなければいけないときに温存できる環境にあるならばそれは恵まれた、と言い切ってはいけないけれどある意味では恵まれたことなのだな、とも思った。
洞口さんが、クールかつ熱く(←両立するんである)ご自分の体験を見知らぬ人々に話せるようになるまでに費やされたエネルギーは、想像できないほど大きいのではないかと思う。

締めくくりは、洞口さんとファルコンさんとのウクレレセッションによる忌野清志郎の『デイ・ドリーム・ビリーバー』の熱唱。歌詞とお二人の声、軽やかなウクレレが沁みた。洞口さんのウクレレは白地にピンクのハートもついていて可愛かった。
教室は涼しかったけれど、お腹に暖かいもの、必要なものとしての重いものがいつまでも残る集会だった。
洞口さんや高橋先生、米澤さん、洞口さんの旦那さんやスタッフの皆さんに心からお礼を言いたい。どうもありがとうございました。